ローリングストーン日本版が柔術のプロスポーツとしての可能性を描く

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MMA人気が高まる中、収益確保を模索するブラジリアン柔術


By Sam Blum 2016/09/28 19:00




Photo by Francois Nel/Getty Images
























MMAが多くの観客を集める人気スポーツとなり、巨大なペイ・パー・ヴュー・イヴェントを開催したり、セレブファイターを輩出しているのに、ブラジリアン柔術はずっと控えめなままだった。

1993年に開催された第1回のUFC大会で、世界はブラジリアン柔術(以下、BJJ)を知ることとなった。当時27歳、体重175ポンド(79.3 kg)の中肉中背の男ホイス・グレイシーが、単純ながら強烈な寝技を駆使、そうした技術を知らない選手たちを屈服させ、圧倒的な強さでトーナメントを制したのだ。その後の数年間で、グレイシーの名前はMMAファンの間にすっかり浸透した。ホイスのMMAでの強さ(彼は2003年にUFCホール・オブ・フェイム入りしている)のおかげで、BJJは世界で最も急成長の格闘技として台頭、グレイシー一族は故郷リオデジャネイロから遠く離れた場所でもレジェンドのステイタスを獲得していく。

その後のMMAが多くの観客を集める人気スポーツとなり、巨大なペイ・パー・ヴュー・イヴェントを開催したり、セレブファイターを輩出するようになったのに対し、BJJは控えめな存在にとどまっている。柔術にはしっかりとした競技会システムがあるのだが、選手が権威ある大会のトーナメントで肉体をすり減らして優勝してみても、賞金が贈呈されることはほとんどない。

ところが、長年をかけてBJJ人気が世界中でゆっくりと人気を高まってきた結果、ついに事情が変わってきた。近年、多額の賞金がかけられた大会がBJJの中心を占めるようになり始め、武闘派のアスリートが相手を締め落とすことで多額の賞金を狙えるチャンスが増えてきているのだ。ポラリス、メタモリス、ジ・エディ・ブラヴォー・インヴィテーショナル(以下、EBI)、コパ・ポジオなどの団体が、BJJにプロスポーツらしさを注入しようとしているのだ。BJJを、ESPNで放送されるような他のメジャースポーツ同等に押し上げようと、ビッグプランを練っている団体もある。とはいえ、これまでのところ、成功への道は失敗や、時には首をひねりたくなるようなビジネス感覚で埋め尽くされている。


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Photo by Francois Nel/Getty Images

























BJJの世界で異端のレジェンド柔術家、エディ・ブラヴォーに言わせれば、BJJはこれまで、エンタテインメントに傾いたことは一度もない。「柔術にカネが落ちてこない理由は、退屈だからだよ」と彼は語る。ブラヴォーの論にも一理ある。伝統的なBJJの試合で2人の選手がチョークや関節技を狙い合う様子は、長い時間をかけて汗まみれで抱き合っているようにしか見えないことが多い。これではチケットが飛ぶように売れたり、ペイ・パー・ヴューが多くのファンに視聴されることは難しい。

このスポーツをもっとBJJコミュニティ以外の視聴者の趣味に合うようにすべく、ブラヴォーをはじめとする団体経営者は、関節技オンリーのトーナメントに注力している。こうしたコンセプトの大会では、選手が試合に勝つためには、対戦相手を身体的に屈服させること、すなわちタップアウトを奪わなければならない。これにより、ノンストップの攻防と、攻撃的なスタイルのグラップリング・マッチが促されるのだ。こうしたショーマンシップこそが、商業的な評判や、企業スポンサー獲得につながるかもしれない。

国際ブラジリアン柔術連盟(以下、IBJJF)が主催する世界選手権など、BJJの世界でトップクラスのトーナメントの場合は、ポイントシステムを採用している。このため、明らかにポイントでリードを奪っている側の選手が、攻め手を緩めて相手を押さえ込み続けることがしばしば発生する。

ポイント制について、ブラヴォーは手厳しい。「ポイント制が柔術をダメにしているんだ」と彼は言う。「人が柔術に夢中になるのは、道場に行ってすばらしい経験、謙虚になれる経験をするからだ。そこはポイント制とはまるで無縁の世界だ。なのにトーナメントに行くと、急にポイントが問題になる。ポイントがこのスポーツのダイナミクスをすっかり変えてしまっている」

試合に金銭を絡ませることも、エンタテインメント性を向上させ、ファンにとってわかりやすいストーリーを創り出す可能性がある。これまでに7大会を開催しているブラヴォー主宰のEBIトーナメントでは、選手に関節技を狙って試合をフィニッシュさせることを要求している。それができない場合には、ファイトマネーは支払われない。

EBIの試合では延長ピリオドはあるものの、ブラヴォーによれば「勝者総取りシステムであり、かつ勝利者も規定に沿った勝ち方をした場合にのみ、ファイトマネーが支払われる」。最近のEBI大会で1位で大会を終えたゴードン・ライアンには、賞金上限50,000ドルのうち、25,000ドルが支払われた。


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多くのMMAファイター同様、柔術の選手は、ジム経営、セミナーでの指導、スポンサーシップなど、さまざまな手段を組み合わせて生計を立てている。多くの技に自分の名前が付けられているというトップ・グラップラー、ゲイリー・トノンは、プロフェッショナル柔術の世界で賞金トーナメントが増加する見通しであることを歓迎している。実際、資金投入が増えることは、彼自身にとっても、BJJの選手にとっても重大な意味を持ちうる。

「BJJの足を引っ張っているのは、団体が選手にきちんと還元しようとしないことにある」と彼は語っている。「どこにでも遠征してIBJJFの大会に出場できるような選手はほんの一握りしかいない。仮にそこで優勝しても、もらえるのはタイトルだけで、カネはもらえないんだ」

こうした金銭面でのインセンティヴも、これまでのところ、トノンが安心して選手としてのキャリアに専念できる道を切り開いているわけではない。トノンはニュージャージー州イースト・ブランスウィックで自身のBJJ道場を経営している。「こうしたトーナメントがあちこちに生まれて、みんなが食っていけるようになっているわけではない。ただ、正しい方向に進んでいることは確かだ」と彼は語っている。

こうした意見に賛同するのは、ニューヨークで練習をしている21歳の世界選手権者で黒帯のドミニカ・オベレニテだ。オベレニテのビッグマッチの動画には、大歓声の観衆の前で戦い、タイトル防衛後には観衆が押し寄せて祝う中で腕を上げられる姿が見られる。それでも、権威のあるタイトルをいくつか獲得した後でも、オベレニテはBJJを職業にしていく道は険しいものだと考えている。

「メダルを取った場合のスポンサーシップが唯一の収入だ」と彼女は語っている。「だから、稼ぐためには常に優勝しなければならない」。オベレニテのようにBJJで全盛期に入った選手ですら、柔術の世界の外でキャリア設計を検討している。彼女は現在、コロンビア大学に通っており、「今は大学にかなりの力を注(そそ)いでいる。BJJをフルタイムの職業だと考えたことはなく、どちらかと言えば副業だと思っている」と語る。

一部のBJJの賞金トーナメントで起きているもめ事の中には、オベレニテの言葉を裏打ちするようなものもある。2016年1月、グラップラーのAJ・アガザームは、メタモリスのインスタグラムのアカウントで自由にマーケティングやプロモーションを行って良いとしてアクセス権を与えられた。しかし彼はこの機会を利用して、メタモリスCEOのハレック・グレイシーを批判、6か月前の試合のファイトマネーが未払いになっていることを暴露したのだった。



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彼はこう書いた。「私とカロ・パリジャンとの試合から6か月以上が経ったが、私はまだ支払いを受けていない。カネの問題ではなく(たいした金額ではない)、むしろ道義的な問題なんだ。私たちはすべてをかけて、ファンのためにエキサイティングな試合、楽しい試合を提供している。私の試合は今でも有料配信されているのに、私は1ドルも受け取っていない」。ハレック・グレイシーはまた、女子選手についての発言で柔術コミュニティから激しい批判を浴びている。

ゲイリー・トノンは、多くの新団体にはプロフェッショナリズムが欠如していると指摘する。「私がこれまでに参加した大会で、これは本当にプロフェッショナルな運営が行われているなと感じた場面や、感心させられた団体には1つも思い当たらない」と彼は語っている。

しかしだからと言って、賞金マッチ台頭の動向に冷や水がかけられているわけでもない。多くの選手、そしてブラヴォーのようなプロモーターは、このスポーツの未来はとても明るいと考えている。こうしたイベントがやがて、柔術をニッチ・スポーツから脱皮させ、より認知度を高め、より高額の賞金がかけられるようになっていくと考えているのだ。柔術の競技会では賞金10万ドルが標準になれば理想だとブラヴォーは言う。

「そこまでいけば、100万ドル到達はそれほど難しくはないだろう」と彼は語っている。

トノンも、柔術は間違いなく、ケーブルテレビでの放映に値する競技であるはずだと考えている。「柔術が一般の人がテレビで見るようなプロスポーツ・イベントになる余地は絶対にあると思う。柔術をテキサス・ホールデム・ポーカー並みにエキサイティングにできないわけなどないんだからね」
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