マイケル・ムーアの世界侵略のススメ 教育費と奨学金で世界最悪の日本は、企業における女性役員比率も低過ぎる。ムーア監督はアメリカ社会の欠点を次々と指摘するが、それは日本の欠点と重なっているものが多い。日本はアメリカと違い、有給休暇が法的に制度化されているが、厚生労働省の『平成27年就労条件総合調査』によると、民間企業の有給休暇取得率は47.6%である。50%を下回る状態がずっと続いている。これでは制度化されていても、あまり意味がない。大学の授業料の問題は深刻だ。日本の奨学金の約9割は日本学生支援機構の貸与奨学金であり、そのうち金額ベースで約7割が有利子だ。日本の奨学金を借りている大学生は、卒業時には約300万円の“借金”を背負うことになる。OECD(経済開発協力機構)のデータによれば、日本は『授業料が高く奨学金も充実していない国』とされており、先進国では唯一日本だけだそうだ。













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映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』
マイケル・ムーア監督に突撃電話インタビュー
過激なアポなし突撃取材で、数々の話題作を発表してきたマイケル・ムーア監督。『ボウリング・フォー・コロンバイン』ではアメリカの銃規制問題をあぶり出しアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞、『華氏911』では同時多発テロをめぐってブッシュ政権の在り方を問うて、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した。その後も、医療制度や金融資本主義などを取り上げて、社会問題に鋭く斬り込んできたが、待望の最新作では、ついにアメリカ国内を飛び出して、世界を舞台にした本作『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』をリリース。今回のミッションは、世界各国を訪れて、いまのアメリカ社会を建て直すのに必要な政策を”略奪”して持ち帰るという「世界侵略」にある。年間8週間も有給があるイタリア、麻薬使用が犯罪対象ではないポルトガル、学校給食がフルコースのフランスなど、各国で目の当たりにする驚きの“常識”とは……? エンタメステーションは、マイケル・ムーア監督に電話インタビューを行い、その世界一平和的な「世界侵略」の舞台裏を聞いた。

完全に道を見失った。欲に目が眩んで、
かつて手にした民主主義を手放してしまったんだ

――今回取材をして、一番監督が驚いた国、もしくは興奮した政策は何でしたか?

すごくたくさんあるから難しいなあ。ポルトガルでは過去15年間に渡ってどんな麻薬を使用しても犯罪に問われていないけど、その結果、ドラッグによる犯罪や使用者が減少しているという事実かな。実際に良い結果が出ているというのがすごいし、痛快だよ。それからフィンランドは学力No.1を誇る教育の国だけど、宿題という制度を導入していないことだね。どれも僕らが当たり前だと思っている常識や業界でまかり通っている通説と、あべこべの結果が出ているんだ!(笑)
ここから得た教訓は、「いまこそ発想の転換が必要だ」ということ。今から20~30年前、アメリカでは「もっと生徒に宿題を増やすべきだ」と言われていた。なぜなら教育水準の高い日本人はたくさんの宿題をこなしていたからだ。日本の子どもたちはより長く学校や塾で時間を過ごして、よりたくさん宿題をしている。大人になっても、より長く会社にいて、 よりたくさん働く。それが強い経済を生みだしたんだと言われていたんだよ。でも間違いだったんじゃないかな。いま日本はあの時のような強い経済を維持できていない。つまり、強い経済力は、それ以外のところに秘訣があったんじゃないかな。アメリカも日本も、本質に立ち返った方がいい。世界的に世の中がおかしくなる前の時代にね。もといた場所に立ち返ってみることは悪くないし、決して「後ろ向き」なことじゃない。僕たちは、いまこそ歴史に学ぶべきなんだ。もっと平和的に人間らしく生きる道や方法が、きっとあるはずだ。ここにひとついい事例がある。なぜ君は、日本時間の朝5時に、僕の話を聞きに来たんだ?(笑)僕は遅い時間でもいいって言ったのに。 働きすぎだし、すごく日本人的だよ。

――……監督に話を聞きたかったので……。

ありがとう。そう言ってくれるのは嬉しいけど、それが当たり前だとみんなが思う風潮はよくないと思うんだ。

――そうかもしれません。アドバイス、ありがとうございます。では映画の話に戻らせていただくと、なぜアメリカは一度手にした自由や民主主義を手放してしまったのでしょう?

完全に道を見失った。過剰に進んだ資本主義社会の中で、欲に目が眩んで、かつて手にした民主主義を手放してしまったんだ。そしてそれは僕たちだけじゃない。多くの国が、目標にすべき道を見失っている。自分のミッションは「その道」を探ることにあると思っている。

教育とメディアは、本来の仕事をすべきだ
このふたつが市民の公共を守る

――アメリカではドナルド・トランプ氏の躍進が続いているようですが、彼が大統領になったら、そのミッションは難しくなると感じますか?

そうだね。だから、なんとかして阻止したいと思っている。でも実際、アメリカ人の多数はドナルト・トランプを支持していない。アメリカで選挙権を持っている国民の80%は女性、有色人種、そして18歳から35歳の若者層だから、みんなが選挙に行けばトランプは負けるはずだ。2008年には、その大多数が黒人の大統領オバマを選んだんだ。だから、僕は自分が居る場所から、自分のやれることをやるだけだ。アメリカの大多数の、オープンマインドで知性のある人たちに向けてね。

――でも数パーセントの富裕層が、いまのシステムを支えていると言われいますよね。そしてトランプは社会福祉政策を唱えて、低所得者層を取り込もうとしているように見えます。

でも頭のいい人たちは気づいてるはずだよ、いかにトランプが嘘つきかってね。最近始まった社会福祉政策のごたくは、単に票集めに走っていて、本当にヤツがそうした公共問題にまったく興味を持ってないことにね。つまり、リテラシーが一層問われる時代になったということだ。だから、教育とメディアは、本来の仕事をすべきなんだ。この2つが、市民の公共を守る。

――時にムーア監督の作品は「主観的すぎて、ジャーナリスティックではない」という批判を受けることもありますが、それに対してどんな反論をお持ちですか。

僕は完璧な客観主義なんて存在しないと思っているんだ。誰かが客観的だと思っていること自体も、それは主観で考えた「客観性」だろう?客観報道にみせかけたプロパガンダほど、たちが悪いものはないよ。それに僕は映画監督である前に、ひとりの人間だ。

――ひとりの人間、ひとりの市民として、映画を撮っているというスタンスなんですね。以前は「ブッシュ(元大統領)を打倒するまで映画を撮り続ける」とおっしゃっていましたが、いまは何を最終目標とされていますか?

目下の目標は、トランプを打倒すること。最終目標は、いい映画を撮ることだ。いま市民が立ち上がって、いい動きが生まれ始めている。「オキュパイ・ウォールストリート」とか、アフロアメリカンの「ブラック・リブス・マター」とかね。たくさんのデモや活動や展開して、何万人もの人が行動を起こした。僕の役割は、この動きをもっと発展させていくこと。一市民としてね。実際に過去作品が、そうした活動のトリガーになったという実感があるんだ。本作も「ヨーロッパだから理想的な政策ができるんでしょう」と言い始めるアメリカ人はいるよ。でも映画を観た後に、もし少しでも共感したなら、次回のPTAの集まりで「給食で、子どもに毒を与えるのはやめませんか?」と発言することだってできる。明日からできることばかりだよ。(クエンティン)タランティーノは、僕が『華氏911』でパルム・ドールを獲った時のカンヌ映画祭で審査員長だったんだけど、「僕はこれまで一度も投票したことがなかったけど、この映画を観て考えを改めたよ。ロスに戻ったら、すぐに登録して投票する。これから先もずっとだ」と言ってくれたんだ。あの言葉は、パルムドール(カンヌ国際映画祭の最高賞)より、はるかに大きな賞だと感じたし、そういう映画を撮り続けたいと思っている。

国内での撮影を一切せずに、アメリカの問題を撮る
それが今回のミッションだった

――今回の映画は問題点に焦点を当てるのではなく、民主主義を機能させるのに優れた政策など良い面にフォーカスした作りになっていますが、その理由を教えてください。

これまで散々批評家に、ムーアは問題点ばかりあげつらって、解決策については手つかずだと言われたから、解決策だけを撮る映画と作ってやろうと思ったんだ。同時に、アメリカ国内での撮影を一切せずに、アメリカの問題を撮る、これが今回のミッションだった。

――監督が影響を受けたという『ゆきゆきて、神軍』も、戦場での撮影はありませんが、まさに戦争を撮った作品でした。まったく違うタイプの映画ではありますが。

それは考えていなかったけど、その影響はあるのかもしれない。自分がこれまでに撮った全作品は、『ゆきゆきて、神軍』の影響を受けていると言っても過言ではないからね。『ゆきゆきて、神軍』は、いまもまだ変わらず、生涯観たドキュメンタリー映画の中で不動の1位だ。原一男監督とはお話をさせていただいたことがあって、非常に光栄だった。本当にすばらしい映画監督で、僕は自分が初監督作品を撮るよりずっと前にアメリカン・フィルム・インスティチュートに行って、彼の映画を観て、すごく影響を受けたんだ。僕はアメリカで彼の映画をもっと上映したい。アメリカ人が観るべき作品だと思っている。

——でも、そうした映画に興味を持つ層って、どのくらいいるでしょうか。監督が指摘されているように、アメリカには他国への興味が薄く、排他的な文化があるとか…。

まさにそうなんだ。自分が少数派だという自覚はあるよ。実際にアメリカ人の70%はパスポートを持っていないし、外国に行ったことがない、だから世界の情勢に興味がないし、ほかの国の人たちがどんな生活をして何を考えているのか知らない。それだけ視野が狭いから「俺たちが一番で、俺たちが正義で、世界の中心だ」と思っている人は多い。でもそれは事実間違っているし、古い考え方だけじゃなく、独裁的で非常に危険な考えだ。でも僕の作品はアメリカの保守層にこそ、気に入ってもらえると思っているんだよ。なぜなら、僕はアメリカという国を愛しているし、なんとかよくしたいと思っているからね。この映画を作ろうと思ったきっかけも、僕は19歳で大学を中退した後、ユーロパスで数ヶ月ヨーロッパを旅したことから始まっている。でもスウェーデンにいる時に、足の指を折ってしまったんだ。それで現地の病院に行って、治療費を支払おうとしたら、「お金を払う必要はない」って言われて、意味不明だったんだよ! ヨーロッパを旅している間に、そんな風に驚かされたことがたくさんあって、「なんて素晴らしいアイディアなんだろう」と思うのと同時に、「どうしてアメリカでは、こうしたシステムが導入出来ないんだろう?」と単純にすごく不思議だった。

でも、物事も時代も変わる
きっと、改善できるはずだ

——しかも映画の中で、欧州の人たちは「この素晴らしいアイディアや政策は、すべてアメリカから学んだ」と言っていますよね。今回監督が試みたのは、“民主主義が失われた後のアメリカ”ではなくて、欧州の政策を通じて、“民主主義が機能していた、かつてのアメリカの姿”を浮き彫りにすることだったのでしょうか。

まさにそうだね。ノルウェーの刑務所に行った時は、椅子から転げ落ちそうになったよ(笑)殺人で服役している囚人が包丁を持って料理ができたり、刑務所が牢屋じゃなくて一軒家タイプだったり….。でも世界でも最も低い再犯率を誇っている。そうした刑務所の核となった考えが、アメリカからきていたと聞いて、ますます信じられない気持ちでいっぱいになった。もちろん完全に過去の時代に戻ることはできない。でも過去から学んで、かつて勝ち取った民主主義がいまどうなっているかを、改めて向き合って、新しい道筋を探すことが必要だと感じている。“自由の国アメリカ”はもう過去の幻想だ。ここから何ができるかにかかっている。

――「世界侵略」を終えたいま、その可能性と希望は感じていますか?

そう思いたいし、信じたい。いずれにしても、変えていくしかない。だって、現状がこんなにお粗末で(苦笑)問題だらけなんだから。でも物事も時代も変わるんだよ。ベルリンの壁の崩壊も、ネルソン・マンデラの釈放も、ひと昔前は、そんなことが起きるなんて、まるで信じられなかった。この1年で起こったアメリカ国内だけのニュースを観てもそうだ。きっと改善できる。若い人たちが変えてくれるだろう。

取材・文 / 鈴木沓子

写真/映画『マイケル・ムーアの世界戦略のススメ』より
(©2015, NORTH END PRODUCTIONS)

映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』

TOHOシネマズ みゆき座、角川シネマ新宿ほか全国公開中

アメリカが誇る最終兵器がついに世界に向けて発射された!!!
これまでの侵略戦争の結果、全く良くならない国・アメリカ合衆国。米国防総省の幹部らは悩んだ挙句、ある人物に相談する。それは、政府の天敵である映画監督のマイケル・ムーアであった。幹部らの切実な話を聞き、ムーアは国防総省に代わって自らが“侵略者”となり、世界各国へ出撃することを提案。そして空母ロナルド・レーガンに搭乗し、大西洋を越えて一路ヨーロッパを目指すのだった。世界のジョーシキを根こそぎ略奪するために――。

監督・製作・脚本・“侵略”:マイケル・ムーア
原題:WHERE TO INVADE NEXT
2015年アメリカ映画 119分 
配給:KADOKAWA 
公式サイト:http://sekai-shinryaku.jp/

©2015, NORTH END PRODUCTIONS

http://myjitsu.jp/archives/6932


映画「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」で浮き彫りになった日本の貧困さ

2016.06.13 21:30

社会

奨学金, 教育, 男女平等, 社会問題
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出典:https://pixta.jp

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映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002年)でアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞し、『華氏911』(2004年)ではカンヌ国際映画祭の最高賞(パルム・ドール)を受賞したマイケル・ムーア監督の最新作『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』が上映中だ。

同映画は、ムーア監督自身が主にヨーロッパの国々に行き、その国の優れた社会システムや政策を見て回り、アメリカでも取り入れたらどうだと提言する内容。これが日本の貧困さをあらためて浮き彫りしていると話題になっている。

ムーア監督が最初に行くのはイタリア。イタリアでは年に30~35日もの有給休暇があり、消化できなかった休暇は翌年に持ち越せる。アメリカは有給休暇の法的制度がなく、一般的な会社ではゼロらしい。また、昼休みが2時間あり、自宅に帰ってランチを食べる様子が写し出される。

フランスでは小学校の給食を取材すると、おいしそうなフレンチのフルコースが並んでいる。アメリカの給食を見せると、フランスの子供たちがまずそうだと拒否反応を示す様子がおかしい。

スロベニアの大学は授業料が無料。これに対して、アメリカでは多額の借金を背負いながら大学を卒業する若者が珍しくないという。映画にも、アメリカで授業料が払えなくなってスロベニアに留学しているアメリカ人学生が登場する。

アイスランドでは1980年に世界初の女性大統領が誕生し、完全な男女平等が実現している。会社の役員は40~60%が女性でなくてはならない。金融立国であるため、リーマンショックのときは多大な影響を受け、国内の銀行はほとんど国有化される事態になった。しかし、それでも女性経営者の銀行一行だけは生き残ることができた。男は野心的かつ自己中心的で、利益追求のためには一攫千金のリスクを取りたがるが、女性は総じてリスクを避けるという。子供の子育てのために協調を選び、利他的だというのだ。

この他にも、次のような驚きの現実が映画の中で紹介される。

・宿題がないのに学力ナンバーワンの国フィンランド
・死刑がなく、懲役刑の最長期間が21年でも再犯率は世界最低のノルウェー
・麻薬の使用は他人に迷惑を掛けるわけじゃないので合法なポルトガル
・休日や退勤後に上司がスタッフに連絡をすると法律違反なドイツ

教育費と奨学金で世界最悪の日本は、企業における女性役員比率も低過ぎる。ムーア監督はアメリカ社会の欠点を次々と指摘するが、それは日本の欠点と重なっているものが多い。

日本はアメリカと違い、有給休暇が法的に制度化されているが、厚生労働省の『平成27年就労条件総合調査』によると、民間企業の有給休暇取得率は47.6%である。50%を下回る状態がずっと続いている。これでは制度化されていても、あまり意味がない。

大学の授業料の問題は深刻だ。日本の奨学金の約9割は日本学生支援機構の貸与奨学金であり、そのうち金額ベースで約7割が有利子だ。日本の奨学金を借りている大学生は、卒業時には約300万円の“借金”を背負うことになる。OECD(経済開発協力機構)のデータによれば、日本は『授業料が高く奨学金も充実していない国』とされており、先進国では唯一日本だけだそうだ。

一方で、『授業料は安いが奨学金が充実していない国』は、イタリア、スイス、メキシコ、フランス、ベルギー。『授業料が安く、なおかつ奨学金も充実している国』はノルウェー、デンマーク、フィンランド、スウェーデン。アメリカは『授業料は高いが奨学金が充実している国』であり、オーストラリアとニュージーランドもこのグループに入る。要するに、日本は先進国の中で最悪の教育制度だということだ。

アイスランドの男女同権も日本には耳が痛い話。ILO(国際労働機関)の報告書によると、日本の女性管理職比率は11.1%で、108の国・地域別ランキングでは96位。アジアではフィリピンが47.6%で唯一のトップ10入り。中国が16.8%で85位なので、日本は中国よりも下ということになる。

アメリカでは史上初の女性大統領が誕生する可能性が出てきた。しかし、日本は女性の国会議員があまりに少なく、女性首相どころではない。国のトップが「女性が輝く社会」とスローガンをぶち上げなければいけない状況は、アメリカよりもかなり周回遅れと言えよう。

【画像】

※foly / PIXTA

http://toyokeizai.net/articles/-/120408


マイケル・ムーアが世界中を「侵略」する理由
「良い制度は持ち帰って米国も見習うべき」
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壬生 智裕 :映画ライター
2016年05月31日
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「マイケル・ムーアが世界中を「侵略」する理由 「良い制度は持ち帰って米国も見習うべき」 | 映画界のキーパーソンに直撃 - 東洋経済オンライン」をはてなブックマークに追加
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『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』では、マイケル・ムーア監督が世界中で「各国のいいとこ取り」を試みる (C)2015, NORTH END PRODUCTIONS
過激なアポなし取材と歯に衣着せぬ物言いで、社会問題を独自の視点で一刀両断してきたマイケル・ムーア。銃規制をテーマにした『ボウリング・フォー・コロンバイン』で米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を、対テロ戦争を題材とした『華氏911』でカンヌ国際映画祭パルムドールを獲得するなど、国内外を問わず絶大なる評価を受けている。
しかし、現在、全国公開中の最新作『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』では、天敵であったはずの米国防総省の片棒を担ぎ、ムーア自らが“侵略者”となって世界各国に潜入するという驚きの展開を見せている。ムーア監督がそこで見たものは、「イタリアの労働環境」「フランスの給食」「フィンランドの教育」「スロベニアの大学」「ドイツの労働者」「ポルトガルの犯罪」「ノルウェーの刑務所」「チュニジアの女性進出」「アイスランドの男女平等」などなど。今のアメリカに必要なものをムーア監督は根こそぎ持ち帰ろうと試みる。
本作は、アメリカ国内に巣くうタイムリーな問題を批判し続けてきた不屈のジャーナリスト、マイケル・ムーアにとっての集大成とも言うべき作品となった。そんなムーア監督に新作への思いを聞いた。
「国防総省の協力」というのはファンタジー
この連載の過去記事はこちら

――国防総省の指令ということで、海外に行ったそうですが、彼らの協力体制はどうだったんですか?

あれは皮肉であり、ファンタジーだよ(笑)。協力してくれることはまったくなかったよ。

――しかし、ムーア監督がミッションを遂行するべく世界各国をまわる様子が、まるでジェームズ・ボンドのようでしたが。

まさに。その通りだね(笑)。

――髪の毛もワイルドなロン毛になっていて。カッコ良かったですよ。

サンキュー(笑)。

――この映画を作る際に事前のリサーチは行ったんですか?

あまりリサーチはしなかった。というのも、実際にいろんな国に行ってみて発見するものにしたいという心意気で行ったわけだからね。だから取材対象の内容については事前にリサーチはしなかった。ただ行けばきっとすばらしい結果が待っているんだろうな、といういい予感はしていた。イタリア人が有給休暇をたくさんとっているという話を聞いた時も、ポルトガルでドラッグを解禁しているのに犯罪者がいないという話を聞いた時も、僕は驚いていたと思うけど、あれは本当のリアクションなんだ。ニュース番組やドキュメンタリーなんかは、あらかじめ答えを用意した上で取材をするわけだけど、そんなわざとらしい芝居をするべきではない。だから前情報がなく、素直な気持ちで話を聞きに行ったんだ。

――こうなったら侵略した成果を公約に、ムーア監督が大統領選に出てくださいよ。

大統領選になんか出馬しちゃったら、忙しくなっちゃうからね(笑)。僕はのんびりと生活したいし、やめとくわ。
フランスの給食をムーア監督が取材。本格的なフランス料理が出てくる様子にビックリ (C)2015, NORTH END PRODUCTIONS

――ここで描かれていることはアメリカにはないものだとおっしゃっていましたが、これは日本にもないものばかりでもあるように思いました。

君の言う通り。この映画を観ていただけると、日本の皆さんにとっても学べる要素がたくさんあると思う。

――これをすべてアメリカが取り入れたら、アメリカはすばらしい国になると考えているんですよね。

そうだね。この映画に出てくる制度を見習ってアメリカでも取り入るようになったら格段に良くなると思う。実際に取り入れるべきだという声もたくさん聞いているしね。

――日本の政治家がこういう映画を観に行ったという話はなかなか聞きません。どうやったら彼らに映画を観てもらうことができますかね?

でも、実際は観てくれているんじゃないかな。たとえ本人が観ていないとしても、きっとまわりのスタッフなんかが観て、薦めてくれているだろうしね。というのも、政治家としての保身という意味合いもあるだろうけど、やはり選挙の戦略を立てる上で、国民の大多数が何を考えているかは知らないといけないわけだから。アメリカは広大な国だけど、少なくとも数百万人が観れば、それなりの影響力はあるからね。

――そうだといいんですが。ただ、日本では文化に理解がある政治家がそれほど多くはないんですよ。

ハハハ。まあ、そういう石頭は観ても分からないだろうから、ほっとけばいいんじゃない?
国民の多くはトランプ候補には投票しないよ

――一方、アメリカではドナルド・トランプが大統領候補になっていて、日本でも心配する声が多くあがっていますが、彼はアメリカをいい国にしてくれるのでしょうか。

君たちが心配するのは当然だよ。ただ、そこまで過剰に心配する必要はないと思う。アメリカで選挙権を持つ80%くらいは、女性や有色人種、18歳から35歳までの若者層であって。トランプはその層をひどく侮辱しているからね。だから彼にはきっと投票はしないよ。だから大丈夫じゃない? きっと彼は当選しないよ。

――この映画では、女性の進出がテーマとなっていますが、アメリカで女性進出が進んでいないというのが意外でもあったのですが。

まだまだアメリカだって議会の割合は20%くらいだし。人口にしたら50%が女性なわけだから、まだまだ頑張らないといけないよ。

――日本も同じようなものです。いや、むしろもっとひどい状況です。

それは君たちが何とかしろよ(笑)。
問題の根源は「私たち」より「私」という考え方
マイケル・ムーア/(Michael Moore)/1954年4月23日、アメリカ・ミシガン州フリント生まれ。22歳で新聞「フリントボイス」を創刊し、ジャーナリストとして活動を始める。1989年にデビュー作『ロジャー&ミー』を発表し、スマッシュヒットを記録。さらにアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を獲得した『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002)、カンヌ国際映画祭パルムドールに輝いた『華氏911』(2004)が大ヒットを記録した。その後も『シッコ』(2007)、『キャピタリズム マネーは踊る』(2009)など、アメリカ国内に巣くうタイムリーな問題を批判し続ける不屈のジャーナリストとして確固たる地位を確立している。ミシガン州トラバース・シティ在住。トラバース・シティ映画祭の発起人を務め、2つの映画館 The State Theatre と Bijou by the Bay を運営している (C)2015, NORTH END PRODUCTIONS

――ヨーロッパ各国からこれだけの「学ぶべきこと」があるのに、アメリカがそれを実現できない理由とは何なのでしょうか。

やはり、アメリカ人のシステムの根本にあるのが、「私たち」ではなく、「私」というところに問題があるんだと思う。

――それは助け合いや思いやりが足りないという意味ですか。

そうだね。アメリカ人というのは助け合いの精神がなくて、基本的に個人主義なんだ。

――それは最近のことですか? というのも、今回の映画では「オズの魔法使い」のフッテージ映像を織り交ぜるなど、どこか古きよき時代のアメリカへのノスタルジーを感じたのですが。

いや。アメリカにいい時代なんてなかったよ。昔は黒人がバスに乗るにも隔離されていたわけだし、さらに時代をさかのぼれば、ネーティブアメリカンへの大量虐殺を行ってきた国だからね。ドナルド・トランプは「すばらしい時代を取り戻す」と言っているけど、すばらしい時代がいつあったんだと言いたいよ。

――となると、やはりムーアさんが大統領選に出るしかないですね。

自分はまだ殺されたくないんで、やめとくよ(笑)。

――ムーアさんはアメリカの諸問題を過激に追及してきましたけど、もちろん根っこにあるのは、アメリカへの愛ですよね。

その通り。アメリカは大好きさ。ただ国粋主義的に大好きってわけじゃなくて、やっぱり故郷だからね。まさに自分は、これからもこの土地で生活していかなきゃいけないわけだからね。
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