武道必修化で税金2500億円!――文科省の計画のカラクリ

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新国立に匹敵する巨額事業――中学武道必修化でなぜ2500億円が必要なのか?


2016年06月09日 ニュース

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柔道場
写真はイメージです。写真/克年三沢

必修化国民の61%同意も、「新国立競技場並み」の費用と誰も認識せず

 2012年(平成24年)4月に完全実施された「中学校武道必修化」は、2006年に自民党・第一次安倍政権下で約60年ぶりに改正された教育基本法に「伝統と文化の尊重」という一文が盛り込まれたことを受けて、2008年の新・学習指導要領改訂により実施されることが決まりました。

 2012年4月に産経新聞が実施したeアンケートでは、必修化に賛成という意見が61%を占め、国民には概ね好意的に受け止められていたように思います。

 ですが、このアンケートはトレードオフの視点が欠落しています。武道必修化にかかる全体的な費用が明示されていないのです。それでは現在、以下のようなアンケートの設問を投げかけたら、国民は一体どのように回答するでしょうか?

「中学校武道必修化には、新国立競技場建設費旧案2520億円並みの費用がかかる可能性がありますが、あなたは必修化に賛成ですか?」……国の借金が1000兆円を超えると言われ、政治とカネの問題が政権の足元を揺るがしている今日、国民の賛同を得ることはおそらく難しいでしょう。

 この「新国立競技場建設費旧案2520億円並みの費用がかかる可能性がある」というのは「仮説」ではありますが、実はあながち有り得ない話ではないのです。本稿では誰もが知らなかった中学校武道必修化の費用総額を解明していきます。

「安い」と思い込み費用の実態を認識していない武道関係者

 武道必修化の費用総額は、武道関係者さえもきちんと把握している人はほとんどいないように思います。私は柔道関係者と話す機会が多いのですが、その多くが武道必修化全体の費用を目先の用具の費用に矮小化して捉えている傾向があるように思います。即ち彼らは「剣道は防具が高額だが、柔道では生徒は柔道衣だけ、学校は畳だけ用意すればいいので安上がり」という論理を展開しがちです。武道専門誌で柔道関係者が授業で柔道の選択が多い理由について、「柔道衣の購入(安価)と、学校にある畳で授業が成立することが一因」と書いています(月刊武道 2015年8月号)。また、文部科学省のホームページ上でも「費用がかからないという理由からか、多くの学校が柔道を選択している」と説明されています。

 お察しの方もいるかと思いますが、中学校武道必修化の実態は典型的な「ハコモノ行政」であり、費用の大部分は武道場整備費です。武道場を全国各地の中学校に建設する費用が「安い」わけがありません。

 昨年、新国立競技場建設費問題が社会的に大揉めになった頃、講道館の機関誌に以下の記事がありました。新国立競技場の膨大な費用について、「国の借金が1000兆円(国民1人あたり800万円)もある我が国において、そのような設定が許されるのか、との疑問は当初からあった」と件の「1000兆円借金話」を引用し、論った後の文末で、武道場を「1日も早く全ての中学校に完備するよう、政治や行政には更なる努力を切望したい」と締めくくったのです(雑誌柔道 2015年9月号)。この記事を書いた方は、よもや新国立競技場建設費旧案2520億円と、全ての中学校に武道場が完備された場合の武道必修化の費用総額がほぼ同額になる可能性があることには気付いていないようです。

 ちなみに剣道関係者からも「体育館の方が武道場より怪我が多く、武道場の設置が必要」と主張する声はあるものの、剣道は体育館の床で実施することに大きな支障はなく、武道場の設置はほぼ柔道の都合であることが明白です。

費用総額を隠蔽し、国民の質問にも答えない文科省

 それでは、何故武道必修化の費用は誰にも知られていないのでしょうか。それは簡単なことで、文部科学省が総額を公表していないからです。文科省は、毎年9月にホームページ上で概算要求資料を公開しているのみです。そこには当年度予算と、次年度予算として財務省に要求する概算要求額が記載されていますので、単年ベースでは文科省予算は把握できます。さらにスポーツ関連予算の内訳として、武道関連費(武道場整備費など)の明細金額が確認できます。しかし将来を見越した累計の費用は全く公表されていません。

 さらには文科省は武道必修化について国民にきちんと情報提供しようという考えは希薄なようです。一方的に断片的な情報を伝えるのみで、質問や取材に誠意をもって答えようという意志が感じられません。

 例えば、民主党政権時代に当時野党だった自民党の馳浩衆院議員(現・文科相)が中学校武道必修化について2度も質問主意書を提出していますが、民主党は答弁書の回答をはぐらかしています。基本的な認識を問う質問には答えているものの、状況や対応を問う質問には「把握していない」「承知していない」「学校の設置者が判断すべきこと」とほとんど答えになっていません。

 それでは与党と野党が入れ替わった現在、民進党が質問主意書を提出したら、馳浩文科相はきちんと答えるでしょうか?それも望み薄です。与野党が入れ替わろうと実際に答弁書を書くのは同じ文科省の役人なのですから……。

 こんなこともありました。武道専門誌が武道必修化を特集した際に文科省を取材した時も、表層的な話しか答えず、何度かのやり取りの後、「一商業誌に特別な対応はできない」と取材を打ち切られた(月刊秘伝 2011年9月号)という話が伝わってきています。

エビデンスに基づく推論で中学校武道必修化の費用総額を検証

 本稿のテーマである「中学校武道必修化の費用総額」について、文科省に聞いたところで答えははぐらかされるでしょうが、信頼できる情報を紡ぎ合わせることで仮説を導き出し、さらにその仮説を検証する手法で核心に迫ろうと思います。エビデンスに基づく推論を展開していきます。

 元外務省主任分析官で「諜報のプロ」の作家・佐藤優さんは、機密情報の「95~98%は、新聞、雑誌書籍、政府機関のHPなど誰でもアクセスできる公開情報から得られる」と言っています(新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 池上彰、佐藤優,文春新書,2014年11月)。情報を取捨選択するリテラシーさえあれば、真実の答えは得られるものと確信しています。

 次回は中学校武道必修化費用総額が、新国立競技場建設費旧案2520億円とほぼ同額になる可能性があるという「仮説」の基礎となる「武道場1棟当たりの整備費」を検証します。
<取材・文/磯部晃人(フジテレビ) 写真/克年三沢>

【中学校武道必修化の是非を問う 連載第1回】

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中学武道必修化で税金2500億円!――文科省の計画のカラクリを追う


2016年06月16日 ニュース

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柔道
写真/Tony Tseng

費用総額を知らない武道関係者が授業内容を軽視する無責任発言

 前回、巨額の税金が投入されると指摘した中学校武道必修化問題。私は、武道必修化それ自体は良いことだと思っており、むしろ賛成です。問題は武道場整備費が非常に高額であることと、その費用がどの位かかっているのかについて全く無自覚な武道関係者が、授業の質を極端に低下させる無責任な言動を行っていることだと思っています。

 例えば、柔道界には重大事故の危険性を懸念するあまり、柔道授業を「礼儀と教えだけで良い」とか「受け身を覚えるだけで良い」とか、わざわざ武道場を作らなくともできる内容の指導で十分と主張する教育関係者が沢山います。

 莫大な税金を使って武道場を建てておいて、授業の内容を教室でも教えられる礼儀や板の間に畳を敷けば教えられる受け身で十分などと発言するのは、世間の納税者への配慮に欠けるのではないでしょうか。ですので、まずは、武道関係者に1棟当たりの武道場整備費がどれほど高額なものかをしっかりと知ってもらう必要があると思っています。

 スポーツマーケティングの第一人者である広瀬一郎さんはこう言っています。「学校体育として開始するスポーツはほとんどの人にとって元から『金のかからないもの』として認識される。このコスト意識も変える必要があるだろう」(『新スポーツマーケティング』 広瀬一郎 創文企画 2002年11月)と。武道関係者の中には、このように中学校武道必修化を「金のかからないもの」と思い込んでいるコスト意識の低い人々が多く見受けられるのです。

文科省は1棟当たりの整備費の情報公開をほとんどせず

 文部科学省は武道場1棟当たりの整備費がいくらであるかの情報を公開していません。文科省がこれまで国民に向けて自ら発信した断片的な情報は以下の2つだけです。

 1つ目は中学校武道必修化に向けた実質的な対応初年度である2009年度予算で「215校分の武道場整備費として約48億円を概算要求する」と武道場1棟当たりの単価計算が可能な内訳を明記したこと(次年度以降は何校分という内訳は1度も表記していません)。

 2つ目は2009年度予算以降「武道場整備費の国の補助率を従来の1/3から1/2に嵩上げする(残りの1/2は地方公共団体の負担)」とする国と地方の費用案分を明記したことです。

 文科省は終始一貫、国が補助する分の武道場整備費の金額しか表示していません。文科省のスタンスはあくまでも地方への「補助」であり、武道場建設の事業主体は地方(市立中学校なら「市」)なので、整備費の総額表示はしないということなのだと思います。そのため、国の補助率が1/2ということは、国の負担分を2倍した金額が費用総額ということになります。

 上記の215校の武道場の整備費が全棟均等な金額であると仮定すると、「48億円÷215校」の約2250万円が文科省の補助する1棟当たりの武道場整備費で、地方も同額を負担するので、その2倍の約4500万円が武道場1棟当たりの整備費ということになります。

建設業界紙と無駄ゼロ会議議事録で武道場1棟4500万円と判明

 これを裏付ける証拠はないかと探したところ2つ見つかりました。

 1つ目は文科省が地方公共団体及び建設業界に向けて提示した武道場整備費1棟当たりの発注条件で、柔剣道場(柔道場と剣道場を併設した武道場)は450㎡までの面積に平米単価99,400円(毎年建設費指数により変動)を掛け合わせた金額とする旨が示されています(建設通信新聞 2009年1月19日付)。これにより柔剣道場1棟の整備費は「450㎡×99,400円」ということになり、約4500万円であることが分かります。(※注)

 2つ目は2008年9月に内閣官房長官が招集した行政支出総点検会議(通称:無駄ゼロ会議)の議事録です。文科省は2012年度から始まる中学校武道必修授業を安全かつ円滑に進めるために2009年度から2013年度の制度移行期間の「緊急5か年」で、2008年度時点の公立中学校の武道場整備率47%を70%まで「+23%」引き上げることを目指すと発表しました。2008年度時点の全国の公立中学校は10150校ですので、その23%といえば2300校強です。この無駄ゼロ会議の議事録では「緊急5か年」の文科省負担分の武道場整備費を520億円と記載しています。

 4500万円の武道場を2300校余り建設すると1040億円となりますが、文科省の補助する武道場整備費はその半額となりますので520億円となり、議事録と金額がピタリと符合します。この会議には財務省から文科省担当主計官や予算執行調査室長も出席しており、「緊急5か年」の目標達成時の武道場整備費は国520億円、地方520億円の総額1040億円であることが「公」に明示されたわけです。

 ここまでの検証で、武道場1棟当たりの整備費は4500万円であることがほぼ裏付けられました。

柔道場なら2500万円、剣道場なら3000万円で建てられるが…

 異論もあると思います。この4500万円は柔剣道場の整備費ですが、柔道場、剣道場をそれぞれ単体で建てた場合には整備費は安くなるのではないかという疑問です。確かに各校で選択した武道の単体の武道場(柔道選択なら柔道場、剣道選択なら剣道場)を作れば整備費は安くなります。文科省は補助の対象となる上限の面積として柔道場は250㎡、剣道場は300㎡と定めていますので、前述の平米単価99,400円と掛け合わせると柔道場は2500万円、剣道場は3000万円で建てられるということになります。

 ですが、どの武道を選択するかに関わらず、武道場の設置の際には柔剣道場を建てるというのが原則としてあるようです。柔道を選択しても、校長が転任するなどして学校の方針が変わり、剣道に鞍替えするというケースもあるでしょうし、少なくとも柔剣道場を設置しておかないと将来的に柔軟に武道教育に対応できないという言い分なのだと思います。柔剣道場であれば、他の武道(空手、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道など)にも対応が可能だということです。


授業でどの武道を選択するかに関わらず建てられるのは柔剣道場 

 中学校武道必修化を推進した日本武道協議会には武道9団体が加盟しており、武道必修化で選択されている種目は柔道64.8%、剣道34.4%、相撲3.2%、空手道1.9%と大きな偏りが見られる(月刊武道 2015年12月号)とはいえ、選択率の低い少数派の武道団体に対する配慮も必要なのでしょう。そのため武道場を建てる際には少数派の武道の稽古にも適合するように総合武道場(柔剣道場)が設置されるのではないかと推測します。

 昨年初めて公表された全国武道場実態調査でも既存の学校関係武道館12539館の55%が総合武道場(柔剣道場)であり、柔道場単体は14.5%、剣道場単体は13%でした(月刊武道 2015年6月号)。このデータからも、昔から学校施設の武道場は柔剣道場の設置が原則であったことが伺えます。

 以上の理由で武道場とは、原則的に柔剣道場を指し、文科省が通常、予算を立てる際には武道場の建設単価を4500万円と見積もっているということが分かりました。

 次回は文科省が全国にいくつ武道場を作ろうとしているかを探ります。これが分かれば「連載第1回」で述べた「中学校武道必修化費用総額が新国立競技場建設費旧案2520億円並み」という仮説の信憑性が格段に高まります。

(※注)2009年当時の平米単価99,400円は現在では建設費指数の変動により若干低下しています。450㎡の柔剣道場1棟の整備費は約4500万円より幾分安くなっていますが、本稿連載では便宜上、金額に変動がないものとしてシミュレートしています。尚、地方が450㎡を超える面積の柔剣道場を設置した場合には、超過した分の面積の費用は地方が全額負担し、国は450㎡分の整備費に対して補助を行います。

<取材・文/磯部晃人(フジテレビ) 写真/Tony Tseng>
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