メイドさん。この甘美な響きを有する職業の現実は厳しい。労働・生活環境とも劣悪であり、"奥様"や上司の厳しい叱咤に耐えつつ、著者は灰色の青春を送る。 休日は月に6日、それも15時から22時までに制限されるなど、当時=1920年代のメイドは働き詰めであり、若い男と出会う機会もほとんどなかったようだ。しかも深い仲に進展する前に「なんだ、女中ふぜいか」の捨て台詞を浴びせられる。当時の使用人の地位がわかるというもの。










英国メイド マーガレットの回想
マーガレット・パウエル
河出書房新社
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https://www.amazon.co.jp/%E8%8B%B1%E5%9B%BD%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%89-%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%AE%E5%9B%9E%E6%83%B3-%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%91%E3%82%A6%E3%82%A8%E3%83%AB/dp/4309205828

1968年にイギリスで出版されたベストセラー。労働者階級出身者による数少ない回想記であり、本邦初訳のようだ。

教養と権力を独占する支配層や台頭しつつある中産階級ではなく、人権すら制限されていた労働者階級の生々しい声、そして女性ならではの主張に満ちあふれている。

著者は1907年にHoveに生まれ、貧しい幼年時代を経て、13歳からクリーニング店の下働きとして社会に出る。14歳から女中の道を歩むが、裁縫が不得手のため、キッチンメイドの職を選択することとなる。

メイドさん。この甘美な響きを有する職業の現実は厳しい。労働・生活環境とも劣悪であり、"奥様"や上司の厳しい叱咤に耐えつつ、著者は灰色の青春を送る。
休日は月に6日、それも15時から22時までに制限されるなど、当時=1920年代のメイドは働き詰めであり、若い男と出会う機会もほとんどなかったようだ。しかも深い仲に進展する前に「なんだ、女中ふぜいか」の捨て台詞を浴びせられる。当時の使用人の地位がわかるというもの。

最初の奉公先=牧師の屋敷では、羊の鞍下肉や牛の腰肉を大量に平らげ、大量に捨てる生活を目の当たりにし「食うや食わずの家族のことを思うと胸が張り裂ける思い」(p60)を抱く。キッチンメイドなのに主人たちの靴磨きまでさせられる。靴紐にもアイロンをかけるという「馬鹿馬鹿しい」(p64)仕事にも耐えなければならない。なぜなら、貧しい大家族の暮らす実家に「帰るのは無理だ」(p85)からだ。
"階上"と"階下"のあまりの違い。「人生の不公平について考えずにはいられなかった」(p68)

1年後、より良い待遇を求めてLondonに移る。KnightsbridgeはThurloe Square(Victoria & Albert Museumの南側だな)に邸宅を構えるカトラー氏のキッチンメイドとして新たな一歩を踏み出す。

職を通じて世のなんたるかを知ることは、古今東西変わらない。使用人を劣等人種とみる雇用主、コックと出入り業者の癒着、"虎の威を借る狐"のような執事の行状、プライドのない同僚メイドの行為などを直接見聞きし、人間を見る目を養ってゆく。

さらに3年後、Kensingtonの屋敷で、著者はコックの道を歩み始める。思惑は外れ、十分な食材は使えず、下働きも付かない。主人を"ma'am lady"、令夫人様と呼ばされる等、恵まれた職場環境ではなかったが、それでもキッチンメイドからコックへ変身できたのは大きかった。使用人を経験した人でないと「この地位の違いはわからない。…キッチンメイドなんて、誰でもない人間。なんでもない存在。…ほかの使用人にすらこき使われる、卑しい女中でしかないのだ」(p149)

個人的には1925年のSussex、同僚メイドであるオリーブ嬢の田舎を著者が訪問する描写が新鮮だった。Londonと違って水道も電気もガスもなく、オイルランプに頼る生活。井戸からオタマジャクシの混じった水を汲んで飲み、大小の用を足すのは地面に掘った穴ときた。これが、七つの海を支配した大英帝国の地方の姿なのか。(p160)

その後、数件の屋敷でコックを務め、結婚して専業主婦となる。様々な雇用主の下で働いた彼女は、雇用主の共通点を発見する。それは、使用人は教養を身につけてはならないと考えていることだ。特に読書は"社会主義"へ道を開くことであり、決して許容されない。"労働者は恋愛娯楽小説でも読みふけっていればよい"、これが支配階層の共通認識だったのだろう。(p189,p230)

第一次世界大戦後、わが世の春をひとり謳歌したのがアメリカだ。ロンドンの大通りを闊歩する男性の半数がアメリカ人だという記述が本書にもある。(p124) 上流階級は苦々しい思いを抱いていただろうが、第二次世界大戦後、彼らにはさらに過酷な運命が待ち受けているであろうことが、本書の後半に記されている。(p227)
その頃には労働者の生活水準も向上した。やがて三児の母親となった著者が、昔の知り合いの紹介から臨時料理人として働くことになるが、使用人の労働環境が劇的に改善されたことに驚いている。
あれだけ権勢を誇った"階上"の人々が経済的基盤を失って困窮するようになった様子は、著者をして同情せしめている。

使用人ならではの面白エピソードもふんだんに散りばめられている。フランス女への給仕をさせられた際、小さな新じゃがいもをドレスに大量にぶちまけ、"谷間"に挟まった一つを取り出す場面などは笑みが漏れた。(p198)

森薫さんの挿画も良いし、満足です。

http://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section2/2006/01/post-200.html

■ハウス・メイドになるほかない女性たち

  ジョクジャではハウス・メイドの支援活動を行っているチュット・ニャ・ディーンというNGOを訪ねた。この団体はハウス・メイドになるための学校も運営していると聞き、行ってみた。ハウス・メイドグループセンター(PRT Center Rumpun)では20名ほどの生徒が家事やベビーシッター、パソコン、人権、雇い主との交渉の仕方などを学んでいる。生徒の多くは貧しい出身であり、小学校を出ているだけなのでハウス・メイドになるほかないと嘆いていた。ハウス・メイドであり、センターでボランティアもしている人とも話した。雇い主から暴力や暴言を受けることもあるそうだが、「クビにされるよりまし」らしい。もし解雇されたら、村に帰れなくなると言う。日本人の家で雇われている人は「日本人は人権を知っているから暴力をふるわれることはない」と言っていた。このセンターでは人権教育を熱心に行っているが、雇い主側が人権を知らないことが一番の問題だと言う。雇い主は政府関係者や企業家が多いので、彼らの意識改革が大変難しいそうだ。

http://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/sectiion3/2011/09/post-152.html

人権の潮流

現代の奴隷制ーインドネシア家事労働者の人権問題ー
嶋田 ミカ(しまだ みか)
国立民族学博物館 共同研究員

はじめに
 「インドネシアのハウスメイドは動物でも家畜でもない。人間なんだ」。
 在アンマン・インドネシア大使館員のアリさんは、聞き取りの最後にうめくようにこう言った。
 2008年1月だけで8名のハウスメイドが虐待、転落、病気などで死亡、26名が投獄、冤罪やレイプ被害者だという。
 大使館に併設されたシェルターには、雇用主から逃げてきた92名の女性が収容されていた。最初に話を聞いた女性は、女主人から殴られて窓から落とされ、8ヶ月間病院で治療を受けたが、下半身にまだ麻痺がのこっている。彼女は、渡航前に仲介者に50万、健康診断に20万インドネシアルピア(1円≒120ルピア)払った。そのほかに渡航後の給料2ヶ月天引きされた。別な女性は、13人の子どもや孫の面倒を見させられた上、賃金をもらえず1年で耐えられなくなり、タクシーで逃げて来た。9ヶ月働いて雇用主男性に何度もレイプされて性病になったという女性は、2ヶ月前にここに来たという。
 2011年6月11日には、サウジアラビアで働いていたインドネシア人ハウスメイドが、雇用主殺害の容疑で、「家畜」のように首を刎ねられ処刑された。この女性は雇用主から度重なる虐待を受けて足を骨折する重傷を負ったこともあるほか、賃金未払いで、契約期間後も無報酬で重労働を課せられていた。賃金の支払いと帰国を雇用主に懇願したところ、逆に雇用主から激しい暴行を加えられたために、刺殺してしまったらしい。この処刑を受けて、インドネシア国内では、激しい抗議行動が起きた。家族に知らされたのは、処刑の後だった。
 本稿では、インドネシア人ハウスメイドの奴隷のような現状と、人権侵害根絶のための対策を考えてみたい。

インドネシア側の問題
 第1の問題は、インドネシア国内の貧困と失業である。他の途上国と同じように、不十分な農業所得、不安定な雇用などによって、男性の多くは不完全・不安定就労の状態にある。それを補うために多くの女性が物売りやハウスメイドなどに従事し、事実上生計を支えている。しかしこれらの女性労働は低賃金であるため、一家を支えることができない。止む無く子どもの教育のため、借金返済のためなどの理由で、女性が危険な海外出稼ぎに向かう。
 第2に、インドネシア政府の海外出稼ぎ奨励策と保護政策の不備である。海外出稼ぎの送金は、莫大な外貨収入源であるだけでなく、雇用対策としても重要であるため、政府は海外出稼ぎを奨励してきた。2006−07年には女性のハウスメイド、子守、介護などの家事労働者が男性の3倍近くに急増したが、労働者の保護政策は後手に回り、マレーシアなど渡航が容易な近隣諸国では、人身売買同然の出稼ぎが多い。
 第3に、斡旋業者によるハウスメイドの債務奴隷化である。インドネシアには政府の認可を受けた斡旋業者の他に、無数の無認可業者が存在する。さらにその下・孫請けが村々に入って出稼ぎ労働者をリクルートする。甘言に乗せられた女性たちは、雇用主側がすでに支払っているはずの「渡航費用」数百万ルピアを要求される。支払えない多くの者は、渡航後の給料天引きという形で、借金を負わされる。賄賂が社会の隅々に横行するインドネシアでは、渡航書類の手数料や偽造という形で、役人も不法就労に手を貸していることが、不法就労の問題を深刻化している。
 また、渡航前研修は、斡旋業者の手で行われるため、軟禁、所持品没収などの人権侵害が頻発している。「研修」では住み込み先での不払や虐待などの対処法を教えるどころか、業者の利益のために「逃げたら逮捕されるぞ」などと脅し、我慢を強制する。

受け入れ国側の問題
 第1に、受入国の政治・経済体制と人権状況である。主要な受入国であるサウジアラビア、アラブ首長国連邦(以下UAE)、クウェートなどの湾岸産油国は、イスラム色が強い王制・首長制をとる。憲法や議会の機能は限定され、普通選挙や女性参政権は不完全である。これらの諸国では、労働力の50−80%を外国人労働者が占める。オイルマネーと「多子若年化」によって、外国人家事・育児労働者の需要が高い。
 2011年6月16日、ILO総会は、家事労働者を労働基準の枠内に置くことを決定した。確かに家事労働者が労働法の枠外に置かれている香港、シンガポールなどの受入国では、この決定は有効であろう。しかし、自国のフォーマル部門就労者の権利すら労働法で保護されていない湾岸諸国では、「画期的」な決定も意味をなさないのではないかと危惧する。
 第2に、ハウスメイドの過酷な労働環境である。どんな労働契約も労働法も、家庭という密室の中では、力を失う。ハウスメイドビザで子守、介護、工場労働、店番のほか、親きょうだいの世帯の家事などを強要される。逃亡防止のため賃金の遅滞、不払いが横行、支払われても公定賃金より10−20%低いことが多い。そのため、渡航前の借金の利子が膨んだり、留守宅に送金できないなどの深刻な事態を生んでいる。
 ときに20時間以上に及ぶ長時間労働、数件の家事の掛け持ち、30人家族の家事全般などの過重労働も問題である。休日は無い場合が、ほとんどである。食事や寝る場所も満足に与えられず、男性雇用主による性的暴力、「マダム」による虐待が日常的になる。外に助けを求めたくとも、軟禁状態に置かれ、その方法はおろか雇用主や業者の名前、住所も知らない。また、窓からの逃亡を試みて転落、精神的に追い込まれての自殺、高窓清掃中の落下事故も多い。宗教・言語等意思疎通の問題、雇用主の人権意識の低さ、アラブ女性の無権利状態も原因であろう。

家事労働者の「奴隷制」廃絶のために
 では、どうすれば、ハウスメイドの奴隷状態を改善できるのであろうか。
 送出国、例えばフィリピン政府は,受入国政府に対して雇用契約内容への介入、労働条件の明記を要求して出稼労働者の派遣を中止してこれを認めさせた。インドネシア政府も03年、これに追随して、成果を得た。外国人労働者に依存する受入国に対して、この方法は有効である。
 また、ハウスメイドに看護師などの職業訓練を行い、閉鎖的な家庭より虐待のリスクが低い施設や病院を職場とする職種にスキルアップする試みもある。渡航前研修でハウスメイドに労働契約、渡航先の労働法、虐待時の避難方法などを教えることも重要だ。外国人労働者に組織化の自由が保障されている香港では、同国労働者の組織化、政府との団体交渉、デモなどの団体行動のほか、国際機関との連携やインドネシア人労働者の組織化の支援や支援団体との連携も図っている。
 一時ハウスメイドの虐待が問題になったレバノンやカタールでは、受入国政府が雇用主に対してときに罰則を含む介入を行うことで、虐待の減少、迅速な問題解決などの成果をあげている。しかし多くの受入国では、送出国とハウスメイドの待遇改善などに関する二国間条約を結んでいても、家庭という閉鎖空間を理由に、有効な対策を行っていないのが現状である。斡旋業者の間では、問題のある雇用主をブラックリスト化し、ハウスメイドを送らないなどの試みもあるが、悪質な業者が存在する限り、徹底は難しい。
 ハウスメイドの人権保護のために、第三者である日本人にもできることはあると、冒頭のアリさんは言う。
 「ヨルダン労働省には日本のJICA専門家も入っている。日本政府を通じて、ヨルダン政府にハウスメイドの人権状況の改善を働きかけてほしい」「西側諸国は、イラク、イラン、リビアなどにおける人権侵害には過剰に反応するが、親米産油国にははるかに非民主的な国があるのに、黙認している」と手厳しい。確かに、石油の主な顧客である欧米や日本が断固とした態度をとれば、かなりの効果を期待できるだろう。
 世界全体で推計5,300万〜1億人とも言われる家事労働者の「奴隷解放」のためには、送出国、受入国だけではなく、国際社会全体がこの問題に目を向けなければいけない。「人身売買大国ニッポン」にとっても、外国人労働者の人権問題は、真摯に取り組まねばならない問題なのだから。

UAE アジュマーンにあるハウスメイドの斡旋業者

UAE アジュマーンにあるハウスメイドの斡旋業者
元ハウスメイドの女性が経営 写真:筆者提供


ドバイの斡旋業者入り口の看板

ドバイの斡旋業者入り口の看板
斡旋できるハウスメイドの国籍が書かれている。
給料はフィリピン、インドネシア、スリランカの順。
インド、パキスタンはさらに低い。

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